バックパッカーパラダイス さいとう夫婦

さいとう夫婦による1991年からおよそ2年半の世界一周旅行を記録した紀行マンガ。1996年旅行人社より刊行。2010年で10刷となるなどロングランを続けている。

著者のさいとう夫婦はともに漫画家。旅をしながら様々な出来事を漫画化して雑誌にリアルタイム連載を行い、本書はそれらをまとめたものとなる。
2年半という月日をかけての作品集なのでかなりボリュームがあり、旅の役立ち情報も豊富。
それでも親しみのあるユルい感じの絵で描かれていて全体的にほんわかとした雰囲気なので読んでいて疲れることはない。
これが2000円弱で買えるのだから客観的に見ても、とてもコストパフォーマンスのよいコミックだというのは間違いない。

さて内容について。本書を読み終えたとき「なんでこんな面白い本を今まで読んでいなかったんだ!」というのが最初の感想だった。
さいとう夫婦自身のキャラクターが登場して旅での出来事がユーモラスに描かれているわけだが、あくまで主役は旅先で出会った人やモノや出来事。
へんな世界観で覆われていたりすることもなく、旅の感動が素直にまっすぐ伝わってきてすごく心地よく読める。
章が終わるごとに、猛烈にその土地を実際に旅したいという思いを掻き立てられた。

たしかに20年も前の旅でのことなので、情報に古い部分があったり状況が大きく変わっていることもある。しかしそんなのは旅人にとっては大きな問題じゃないだろう。たとえ1年だって変わるときは変わる。
絶対に変わらないのは、旅が素晴らしく感動的な何にも代え難い体験だということだ。それがぎっしりと本書にはつまっている。
夫婦に限らず、すべての旅好きに自信を持ってオススメできる一冊。

おまけ。2011年に休刊した「旅行人」編集長蔵前仁一氏の巻末の解説もよかった!
 

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あの空の下で 吉田修一

小説家・吉田修一が2007〜2008年にかけてANAの機内誌『翼の王国』で連載していた短編小説・エッセイを収録。2008年10月単行本刊行。2011年5月文庫化。

著者・吉田修一は「パークライフ」「パレード」「東京湾景」などの代表作があり、さらに2010年公開され妻夫木聡と深津絵里が出演した映画「悪人」の原作者と言えば多くの人の知るところだろう。その吉田修一の旅や飛行機にまつわる短編小説、そしてエッセイがまとめられている。

吉田修一と旅という組み合わせに新鮮さを感じたのはきっと僕だけじゃないだろう。

都会派というイメージがすごく強くて、特に「パークライフ」。初めて読んだときは地方の学生だった僕に東京のイメージを深く刻みつけてくれた。舞台が東京だったり背景というというのもあるけど、やはり作風かな。淡々とクールにストーリーが展開して、淡白な人間関係のなかにどこか本質的なものが表現されているというか。うまく言えないけど。ともあれ、旅などという都会とは真反対のものに対しての文章なので、とてもわくわくして本書を手に取った。

まず12編収録されている短編小説。こちらはいずれもショートショートとも言えるような5分ほどで読める分量だが、いずれも心がフッと軽くなる話。そんな短い文章で登場人物のキャラを立てて感情移入させることができるのはほんとに素晴らしい。僕は陸の上で読んだけれども、機上で読めば旅前のわくわくや旅後の感慨をよりより強めてくれたことだろう。

そしてバンコク、ルアンパバン、オスロ、台北、ホーチミン、スイスにまつわる6編のエッセイ。個人的にはこちらが最大の見どころだった。

各土地での決してドラマチックではない出来事が綴られているのだがそれがいい。

「心細さとは決していい感情ではないのだろうが、旅先でふとこの感情に触れた時、次に目にする風景が、期待以上に鮮烈で、忘れがたいものになることがある」
「旅先で見つける普通というのは、なぜこんなにも愛おしいのだろうか」
小説と同様に洗練されたオシャレな文章だけど誰にでもよくある旅の一場面でのこういった思いに強く共感できた。
吉田修一は案外都会派ではないのかもしれない。

本書の一編を機上で読むことができた方はとても幸福だったと思う。
でも陸の上とはいえ僕らはこれをまとめて続けて一気に読めるのでそれはそれでとても幸福なことだ。

あの空の下で (集英社文庫)
吉田 修一
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空白の五マイル 角幡唯介

Posted 9月 21st, 2011 by kzmr and filed in 角幡唯介

チベット奥地のツアンポー峡谷。著者・角幡唯介はその世界最大の峡谷の探険史を解きほぐし、人跡未踏である空白の5マイルを埋めるべく自ら足を踏み入れる。第8回開高健ノンフィクション賞受賞作。

amazonの紹介より抜粋

チベットの奥地にツアンポー峡谷とよばれる世界最大の峡谷がある。この峡谷は一八世紀から「謎の川」と呼ばれ、長い間、探検家や登山家の挑戦の対象となっ てきた。チベットの母なる川であるツアンポー川は、ヒマラヤ山脈の峡谷地帯で姿を消した後いったいどこに流れるのか、昔はそれが分からなかった。その謎が 解かれた後もツアンポー峡谷の奥地には巨大な滝があると噂され、その伝説に魅せられた多くの探検家が、この場所に足を運んだ。

早稲田大学探検部に所属していた私は大学四年生の時、たまたま手に取った一冊の本がきっかけでこの峡谷の存在を知った。そして一九二四年に英国のフラン ク・キングドン=ウオードによる探検以降、ツアンポー峡谷に残された地理的空白部の踏査が一向に進んでいないことを知った。キングドン=ウオードの探検は ほとんど完璧に近く、彼の探検によりこの峡谷部に残された空白部はもはや五マイル、約八キロしかないといわれていた。しかし残されたこの五マイルに、 ひょっとしたら幻とされた大滝が実在するかもしれない。キングドン=ウオードの残したこの「空白の五マイル」は、探検が探検であった時代の舞台が現代まで 残されている、おそらく世界で最後の場所だった。私は空白の五マイルを含めたツアンポー峡谷の核心部をすべて探検しようと心に決め、一九九八年に部の仲間 と一緒にツアンポー峡谷に向かった。

読み始めてまず気付くのは本書はただ単に探検を記したものではないということだ。
探険史を丹念に解きほぐして、実際に当事者にインタビューをするなど取材が徹底されており、ツアンポー峡谷に挑んだ探検家たちがリアルに描き出されている。
悲しい事件の背景に迫る部分では熱く込み上げてくるものがあるだろう。
そういった歴史を踏まえて自らツアンポー峡谷の空白の5マイルを目指す著者の探検に感情移入せずにはいられない。

最後に「空白の5マイル」という本書のタイトル。
無条件に読むべき本だと判断してしまったがやはり間違っていなかった。
読む前のワクワク感が読後、静かな深い感動に変わる。傑作中の傑作。

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡 唯介
集英社
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イスラム飲酒紀行 高野秀行

「私は酒飲みである。休肝日はまだない」というアル中一歩手前の辺境作家・高野秀行がイスラム圏各国の飲酒事情をルポ。週刊SPA!にて不定期連載された「イスラム飲酒紀行」の単行本化。2011年6月。

マリファナや麻薬または女などには目もくれず、ときには危ない橋を渡って酒を求める著者。タブーとされている飲酒事情とともにイスラムの人々のリアルな姿も徐々に明らかに!?

いやしかし、なんて面白いんだろう。

  • 日本では普通に手に入る酒(入手が難しい地酒の場合もあるが・・・)をわざわざ禁じられている国で探し求める著者。
  • 著者に振り回される森、織田、末澤各氏のなかなかの名脇役っぷり。
  • 最初は「酒はない!」と突っぱね、別れ際に「酒ほしいのか?」と言ってくる心優しい地元の人々。
  • で、結局なんだかんだ酒飲みはどこにでもいて、彼らなりの飲み方で飲酒を楽しんでいる。
  • で、結局彼らといっしょにわいわい飲んでいる著者一行。

おおよそこんな感じだが、各地でいろいろ異なる事情があり、出会う人々にも個性があって、全く飽きない。人が行かないところに行って、人がやらないことをやり、それを面白おかしく書く、とはよく言ったものだ。まさにその通り。

捕まるリスクを冒してまでハイネケンを飲む必要なんてないじゃないか。しかし、その酒を入手する過程で見えてくる人々の素顔や実情に親近感がわいてたまらない。

高野秀行の著書では今まで遠かった世界(辺境)や文化が、身近にそして少し滑稽に描かれている。本書を読む前は、刺激的なタイトルだし、不謹慎で不快に感じる人もいるのかなと思ったが、いったん読み始めれば全くそんなことはない。笑いで腹を抱えながら安心して読んだ。

なぜかといえば、やはり著者がその文化と人々を心底敬っているからなんだろうなと。

面白おかしい本なので、そんな真面目な歯の浮いたセリフは一言も書いてないが、どの著書からも感じることであり、僕が高野秀行が大好きな理由でもある。

全力で続編希望。もっともっとイスラム圏で飲酒紀行をしてほしい。(捕まらない程度に。)

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ミャンマーの柳生一族 高野秀行

Posted 11月 25th, 2010 by kzmr and filed in 高野秀行

辺境作家・高野秀行が早稲田大学の探検部の先輩である大御所作家・船戸与一とミャンマーの辺境を旅した。ミャンマーを江戸時代になぞらえて繰り広げられる爆笑珍道中記。2006年3月。

過去10回以上ミャンマーへ入国し(ほとんどが非合法)、政府の手すら届かない辺境でアヘンの栽培などにも従事したことのある著者・高野秀行。
著者は軍事独裁政権(徳川幕府)の中にあって特殊な機能を持っている軍情報部にいちばん近いのが「柳生一族」だという。
今回、探検部の先輩である大物作家・船戸与一の取材旅行に同行。柳生一族の監視のもと合法的に旅することになったが、さてどんな展開が待っているか。

今作でも大爆笑させていただいたが、まったくすごい作家だなと唸りっぱなしの作品だった。
ミャンマーと江戸時代を重ねるとは完全にぶっ飛んだ発想に違いないのだが、そこは高野秀行。妙に説得力があり、実際に合点がいく点が多いのだ。
あまり知られていないミャンマーの少数民族勢力と江戸時代の外様大名を重ねて見るとまさにピタリ。こういう発想をして実際に文章にできる人物は後にも先にも著者しかいないだろう。
ニュースや書物で得た知識でなく、現地を旅し深くの人々と生活に関わってきたからこそ、詳細の部分で辻褄が合ってくるんだろうと思う。

なかでもミャンマー人の社交性の秀逸さと明治維新後の日本の外交力の根拠をともに多民族国家(日本は藩政だったが意識としては連邦制に近かった)であるがゆえ、と論理を発展させたときには鳥肌が立った。限りなく単一民族国家に近い現在の日本、外交力や社交性の欠如が目立つ(当然自分も含めてorz)のは偶然ではないんだろう。

「アウン・サンを徳川家康、スー・チーさんを千姫、軍部を柳生一族になぞらえると、これはまたおもしろいように現代のミャンマーが浮き彫りになってくるのに仰天した」
と解説で椎名誠も言っているように、おもしろおかしくミャンマーの現状を伝えてくれる一冊だ。もちろんミャンマー初心者の方にはたいへん読みやすく入門書としてもいいだろうが、個人的には実際に旅したことのある玄人の方におすすめしたい。

ミャンマーをよく知っている人ほど、高野秀行がすごい作家だと知るはずだ。

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