週末アジアでちょっと幸せ 下川裕治
元祖日本人バックパッカーと言われる下川裕治氏が週末を利用したアジア旅8編を紹介。いずれの旅も短いが濃厚な旅のエキスが詰まっている。2012年8月30日刊行。
本書で紹介されているのは以下8編。
- 韓国 大阪〜釜山
- 台湾 台北〜馬漕花藝村
- マレーシア マラッカ
- シンガポール・マレーシア バトゥパハ川
- 中国 星星峡
- 沖縄 多良間島
- ベトナム ドンダンー憑祥
- バンコク プラカノン運河、センセープ運河
各章末には実際に利用した経路や費用など旅のポイントがまとめられていて役に立つ。また全ての旅に同行したカメラマン中田浩資氏の写真も多数掲載されており旅の雰囲気を盛り上げる。
以下、感想。
なんだか女性向け旅行雑誌の特集のようなタイトルだなぁと思いながら読み始めたが、中身は全然違う。記されているのは男くささ満点のディープな旅だ。
例えばもっとも週末旅のしやすそうな韓国。もちろん普通の旅行はしない。大阪から釜山へフェリーで、しかも雑魚寝の大部屋。着けば着いたで観光は皆無。地元の人が集まる食堂を探して歩き回る。
他にも金子光晴の「マレー蘭印紀行」の記録を辿ってマレーシアの熱帯雨林の奥深くへ向かったり、ベトナムから中国へ陸路で国境を越えたり、バンコクでは観光客皆無の運河と水路を巡ったり。
週末の2〜3日でこんなにディープな旅ができるのかと驚いたし、正直現代の若い旅人や女性にウケるとは思わないが、響く人にはガンガン響く、そんな旅だった。
なかなか時間のとれない往年のバックパッカーには間違いなく刺さる一冊。


LCCで行く!アジア新自由旅行 著者:吉田友和
昨今話題のLCC(Low Cost Carrier)を乗り継いでアジア7カ国を10日間で巡る。運賃総額はなんと3万5000円。新しいスタイルのアジア自由旅行とはどんなものなのか。2012年7月6日刊行。文庫書き下ろし。
LCC元年と言われる2012年。LCCとは何ぞやを解説する本は数あるが、実際のところそれでどんな旅行ができるのかを記した本は本書が最初かもしれない。格安であちこちを周遊できるLCCは旅の可能性を広げる画期的な手段となるのか?著者はスマホ(スマートフォン)やiPadなどのデジタル機器を使いこなす新世代の旅行作家・吉田友和氏。これぞまさに新スタイルとも言うべきアジア旅行が記されている。
以下、利用LCCと発着地。
- ピーチ航空 札幌(新千歳)➡大阪(関空)
- ジェットスター・アジア航空 大阪(関空)➡台北(桃園)
- セブパシフィック航空 台北(桃園)➡マニラ
- タイガーエアウェイズ マニラ(クラーク)➡バンコク
- タイ・エアアジア バンコク➡ホーチミンシティ
- ライオンエア ホーチミンシティ➡シンガポール
- バリューエア シンガポール➡デンパサール
- インドネシア・エアアジア デンパサール➡クアラルンプール
- エアアジアX クアラルンプール➡東京(羽田)
個人的には地を這うようなアジアの陸路の旅が好きだ。公共の交通手段が途絶えるような最果ての村まで行ってみたいという願望が常にある。本書はその正反対とも言えるような、空路で身軽にあちこちを飛び回る旅の話。どうも情緒のなさそうな旅だなぁと思って読み始めたが、読み終えてみるとたいへん面白かった。著者はあとがきで次のように言っている。
LCCとは突き詰めれば航空便の変化形にすぎない。いわば旅のツールの一つにすぎないのだ。それ以上でも、以下でもないと思う。
ツールを使うことでどう旅を発展させられるか。一言で言えばそれが本書に記されていることであり、旅行記であると同時にトラベルハック本でもある。正直いくら安くても同じ旅程で旅をしたいとは思わない。ただLCCをうまく利用すれば、より自分のしたい旅行を実現しやすくなるんだろうなと。そういう期待というか希望が湧いてくる内容だった。アジア旅行好きなら必読でしょう。


アジア無銭旅行 金子光晴
明治生まれの詩人・金子光晴のアジアの旅に関連する詩や紀行文を集めた作品。
中国や東南アジアを不得手の絵画を売って日銭や交通費を稼ぎつつ旅をしたことなどが収録されている。
金子光晴は破天荒な詩人だ。本書の後半に収録されている年表にもぜひ目を通していただきたい。wikipediaでもその経歴が詳細に記載されている。
ぱっと目に付くところでは、14歳で房総半島を横断し、早稲田、慶応、東京芸大をいずれも中退している。また晩年こそたくさんの詩集の刊行しているが、若い頃は養父の遺産で放蕩生活をしていたようだ。
放蕩生活の後、金銭的に困窮する時代も、旅費を稼ぎながらアジア・ヨーロッパを旅するなど奔放の限りを尽した。本書に収められている作品の多くはその旅をテーマとしたものである。
それにしても大正もしくは昭和初期という時代にこういう地ベタを這いずるような旅をしていた人物が存在していたということに驚く。欧米列強の先進国に遊学というのは既に珍しい時代ではないが、シンガポールやマラッカの安宿で食費にも困っていた日本人がいたとは。
放浪の様子については、こちらのブログ記事がよく表していて面白い。
金子光晴の放浪3部作メモ(1): Days of Books, Films & Jazz
この本、そして金子光晴という人物に出会えて幸運だった。
尊敬の念がわきあがってきてやまない一冊。
角川春樹事務所
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そこはかとなき閉塞感からの解放もありうる〜〜〜

