旅のうねうね グレゴリ青山

独特な味わいのある絵と登場人物たちの旅心をくすぐるやりとり。なによりそのゆるい空気感。芸術の域に達した感のある旅情あふれる旅コミックエッセイ。2012年7月31日刊行。

よい思い出のある旅先は、もう二度と戻れない桃源郷のようなところだと思う

冒頭の「サデックの一日」という章の最後の一コマ。草木の生い茂る田舎道を進むおんぼろ小型バスの後ろ姿の絵に添えられた文章だ。もうこのシーンだけで僕はキュンキュンきた。ツボというかなんというか。そして本書にはそんなシーンがこれでもかというくらい満載なのだ。

旅の思い出って船の航跡に似てる。進んでいく時、船のまわりにうねうねした波の模様ができて、やがて消えていく。旅をしている人のまわりにも、うねうねとした思い出の模様ができる。

あとがきから。あぁ。つまり僕はそのうねうねにときめくのだな。例えば、長期旅行から帰ってきたばかりの人の話が楽しいのは、旅そのものの話じゃなくて、まだうねうねした模様がはっきりしていて、なんならまだそいつ自身がうねうねしているからなんだろうな。なかなかうまく説明できないし、説明しようとも思わないけど、特につげ義春田中小実昌あたりにときめく人にはオススメ。とにかく旅好きな人にとってはとても満足度の高い一冊だというのは間違いない。

旅のうねうね
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てくてくカメラ紀行 石川文洋

Posted 10月 10th, 2010 by kzmr and filed in 石川文洋

報道カメラマン石川文洋がカメラを持って徒歩で日本縦断した。
風景、人々、動植物。様々なものにカメラを向けて日本を綴る。

石川文洋65歳。
2003年7月15日、日本の最北端、北海道・宗谷岬を徒歩で出発して、
同年12月10日沖縄・那覇に到着。日本海に沿って3300km歩いた。
本書は道中で撮影した様々な写真とその土地ごとの感想やコラムで構成されている。

石川文洋と聞くと戦場カメラマンというイメージが強いのだが、
それらの土地へ以前に撮影で訪れた際の回想も多く、
実はこれまでに様々な物事を撮影してきたということが分かる。
本書に収められている写真や文章はノンテーマなだけに
その知見の幅広さや愛すべき人となりがダイレクトに伝わる。

本当にじんわりと面白くなってくる本だ。

舞台は現代の日本で、当然誰もが通れる道を進んでいるわけだから、
そうそう目新しいものがあるわけではないのだが、どこか異国のように錯覚することがある。
そのフィルターはもちろん著者の戦場を主とした様々な経験で培われたものだろうが、
徒歩というもっともスローな移動手段での旅によるところもかなり大きいのではと思う。

おそらく、ある地点から別の地点へ素早く移動してしまうと、
大きな変化に目を奪われて、微細な変化には気付きにくくなるのではないか。
ゆっくりした移動だからこそ、多くの人が目を止めない微細な変化に敏感になることができ、
まるで異国にきたかのような発見の連続が可能になるんじゃないか。

恥ずかしながら、僕自身、横浜から新潟・直江津まで徒歩で旅したことがあるのだが、
土地から土地へ少しづつ移動していく日々、「雰囲気」がなんとなく変化していくのを感じた。
学生だった当時の僕はあまりに無知で、「雰囲気」を言葉に置き換えることができなかったし、
歴史を知らず、動植物の名も知らず、今でも「雰囲気」しか思い出すことができないけれども。

しかし石川文洋にはカメラがあり、多くの経験と知見がある。
ぜひ本書を手に取り、著者の昔話などに耳を傾けながらゆっくり日本を再発見していただきたい

あぁ、てくてく歩いて旅したい。

てくてくカメラ紀行―北海道‾沖縄3300キロ (エイ文庫)
石川 文洋
エイ出版社
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アジア無銭旅行 金子光晴

明治生まれの詩人・金子光晴のアジアの旅に関連する詩や紀行文を集めた作品。
中国や東南アジアを不得手の絵画を売って日銭や交通費を稼ぎつつ旅をしたことなどが収録されている。

金子光晴は破天荒な詩人だ。本書の後半に収録されている年表にもぜひ目を通していただきたい。wikipediaでもその経歴が詳細に記載されている。
ぱっと目に付くところでは、14歳で房総半島を横断し、早稲田、慶応、東京芸大をいずれも中退している。また晩年こそたくさんの詩集の刊行しているが、若い頃は養父の遺産で放蕩生活をしていたようだ。

放蕩生活の後、金銭的に困窮する時代も、旅費を稼ぎながらアジア・ヨーロッパを旅するなど奔放の限りを尽した。本書に収められている作品の多くはその旅をテーマとしたものである。

それにしても大正もしくは昭和初期という時代にこういう地ベタを這いずるような旅をしていた人物が存在していたということに驚く。欧米列強の先進国に遊学というのは既に珍しい時代ではないが、シンガポールやマラッカの安宿で食費にも困っていた日本人がいたとは。

放浪の様子については、こちらのブログ記事がよく表していて面白い。
金子光晴の放浪3部作メモ(1): Days of Books, Films & Jazz

この本、そして金子光晴という人物に出会えて幸運だった。
尊敬の念がわきあがってきてやまない一冊。

アジア無銭旅行 (ランティエ叢書 (18))
金子 光晴
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5 そこはかとなき閉塞感からの解放もありうる〜〜〜

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南島ぶちくん騒動 椎名誠

Posted 1月 10th, 2010 by kzmr and filed in 椎名誠

1990年に映画「うみ・そら・さんごのいいつたえ」の撮影のため、椎名誠とそのクルー達が石垣島で約一ヶ月半過ごしたときの滞在記&エッセイ&写真集。映画撮影時の裏話や地元の人たちとの交流がエッセイやモノクロ写真で記録されている。また、あとがきとして、10年後、つまり2001年に再訪したときの話が収録されている。

100ページ強ほどのボリュームで、写真が多く、文章は少ない。石垣島、あるいは八重山のゆるい空気に浸るにはそれくらいがちょうどいいのかもしれない。映画撮影時の裏話が多いが、本書を楽しむのに映画を見ているかどうかは全く関係ないだろう。地元の人たちに協力してもらいながら、みんなで作品を作り上げている様子がなんとも微笑ましい。

子どもたちのモノクロ写真が何枚も掲載されており、そこはかとなくノスタルジーを誘うが、1990年なので実はそんなに昔ではないことに驚く。きっと今でもそんなに変わっていないだろう。読後感が非常に心地いい。

率直に言って、これといった見どころや際立つ特徴がある本ではない。
しかし、じわじわと石垣島に行きたくなってくる。いい本だ。

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4 沖縄の空気感が漂う
3 オリジナルとの違いは大きい

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アジア迷走紀行 下川裕治

下川裕治のアジアシリーズ。徳間文庫書き下ろし。2001年6月。 長年アジアを旅してきた著者が旅人視線で移り変わりゆくアジアを綴る。

章立ては以下の通り。

第一章 変わりゆくバックパッカー

第二章 新・アジア食事情

第三章 ちょっとおまぬけ、アジアンビジネス

第四章 アジア人間模様

第五章 それでも僕は旅をする

それぞれの章は数編のコラムからなっている。 個人的に特に面白かったものをピックアップしてみる。

アジアン・ジャパニーズ

本来社会からのドロップアウトの烙印を押されていたはずの貧乏旅行者が、アジアン・ジャパニーズによって市民権を与えられて沈没旅が正当化されたという。最近、カオサンを歩く日本人の歩き方が堂々としている気がするとのこと。確かにいつの間にか貧乏旅行=ドロップアウトではなくなってきているなぁと思った。

連鎖退社を選ぶOL達

仲の良い友人が会社を辞職することになり、話し相手がいなくなるという理由で辞職を申し出たタイのOLを例に、タイの労働観について述べられている。自分の能力を超えているものには手を出さず、就業時間が終わればさっさと帰る。日本人の半分くらいの労働力しかないのではと。その割には経営者は大風呂敷を広げるので納期は守れない 。しかし最近はその労働観も日本的になりつつあり、仕事がしやすくなる一方、どこか寂しい気もする・・・

成田空港密入国を追った日々

日本で不法に働くアジア人が社会問題になっていた頃、タイ人女性(手引きしているのはヤクザ)が密入国を試みた様子と手口が詳細に描かれている。手に汗を握ってしまう。今の成田空港が平和なのは、日本経済の後退が彼らの日本熱を奪ったからだという。

ロスマンズが消えていく

世界的に喫煙者が少なっているがアジアも例外ではない。空港などで喫煙スペースがどんどん限られてきている。しかも著者の好きな銘柄ロスマンズも姿を消すのは時間の問題とのこと。いずれ喫煙はノスタルジックな行為となっていくのかもしれない。

貧乏旅行でなくても安宿にひかれる

人からなんといわれようと安宿が気が楽だという著者に共感。僕もまた「部屋に体を合わせるタイプ」なのかもしれない。確かに高級ホテルってどうしても挙動不審になってしまうんだよなぁ。

全部で20編のコラムがあるが、どれも積年の経験から生まれた含蓄に満ちている。 読む人それぞれに興味深いものが見つかるだろう。

 

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4 変わりゆくアジア

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