ミャンマー 失われるアジアのふるさと 乃南アサ

Posted 2月 10th, 2010 by kzmr and filed in 乃南アサ

軍事政権に対する僧侶のデモやサイクロン被害など、依然ネガティブなニュースが後を絶たないミャンマー。しかしながら旅行者の間では旅行前と後で大きく印象が変わる国として知られ、リピーターが非常に多い。そんなミャンマーで作家・乃南アサは何を見てどう感じたか。2008年6月刊行。

ヤンゴンやマンダレーといった都市、そしてインレー湖やバガンといった景勝地での出来事が断片的に綴られており、時系列にルートに沿って展開していくことの多い一般的な旅行記とは読み心地が大きく異なる。さすが作家(といっては失礼か)、一つ一つの場面の描写が美しく情景的だ。特に夜明けの世界三大仏教遺跡の一つバガンの仏塔群の描写はぐっと引き込まれた。章が終わるたびに、短編小説を一つ読み終えたかのような気にさせられた。ふんだんに配置されている美しい写真(撮影、坂斎清)もそれに一役買っているだろう。また、全く見返りを求めない無償の親切に対してどう報いたらいいのか著者が悩む場面があるのだが、僕自身もミャンマーで全く同じ経験があり、とても親近感がわいた。

ここまでつらつらといい場面ばかり述べたが、単純に叙情的で楽しい旅行記というわけではない。特に政治的な話題に言及しているときは非常にリアルで迫ってくるものがある。本書のエンディングで、日本語を勉強している若い僧侶が軍事政権に対する思いを憤りつつ語る。「今、ミャンマーの政治は悪いです。最低です」否応なしに2007年の僧侶のデモを想起させる言葉だ。冒頭にもあるが、日々実直にそして静かに仏に仕えてきた僧たちは、どれほどの思いを込めて起ちあがったのか。それを想像するだけでぐっと込み上げてくるものがある。

まとめると、本書では異国情緒に溢れる描写を楽しむことができ、さらにミャンマーという国の実情にも触れることもできるだろう。非常にバランスのとれた一冊だ。ミャンマーを直接自分の目で見て感じたいと思わせる力に満ちている。

ミャンマー―失われるアジアのふるさと
乃南 アサ
文藝春秋
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おすすめ度の平均: 4.5

4 前書きが全てを語る
5 美しく、そして切ない国
5 初めての乃南アサ

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アジア極楽旅行 下川裕治

Posted 1月 29th, 2010 by kzmr and filed in 下川裕治

下川裕治のアジアシリーズ。徳間文庫書き下ろし。1996年10月。
長年アジアを旅してきた著者がディープなアジアを語る旅エッセイ。

目次は次の通り。

1章 アジアの旅の十二カ条
 ホテルの部屋ではウンコをしない
 駅前ティッシュをアジアへ持参する
 アジアの旅にはドルの現金を持っていく
 貧乏旅行者は女を買うな
 アジア好きなら車の免許を持つな
 アジアではすべての動力車がタクシーである
 中国人は寒さにめちゃくちゃ強いから注意しよう
 タバコを喫う人の権利は通用しないと思え
 アジアのホテルのクリーニングは申し訳ないほど安い
 アジアのギャンブルおばさんとは場を囲むな
 東南アジアではソファに座るな
 アジアの米は変幻自在であることを知れ

2章 アジアと日本の新しい関係
 都バスがラングーンを走る
 海を渡ったタマゴと魚肉ソーセージ
 三角折りトイレットペーパーのナゾ
 アジアに流出するセックス大国、日本

3章 日本とかかわるアジア人物語
 マウンの帰国
 エイズ青年の帰国
 ムイの恋
 アラカン人の日本

4章 激揺するアジア
 上海と広州
 中国に還る
 プノンペンの闇
 瞑想の国

1章と2章は著者の旅の経験談を中心にしたユーモアのあるエッセイ。多少アジアを貧乏旅行した経験のある方なら、ついつい「あるある」とか「へぇ〜」とかいつだかのテレビ番組みたいな相槌を打ちたくなるような面白話が満載だ。そして3章と4章。こちらは一転シリアスな話題となる。3章では著者のかかわったミャンマー人やタイ人、そしてアラカン人が来日して直面したリアルな現実が語られる。特に日本でエイズに感染したタイ人の青年の話はあまりにもリアルで切ない。4章のカンボジア、そしてミャンマーの政治に端を発する国の実情も決して我々が忘れてはならないことである。
面白いこともシリアスなこともひっくるめてアジア。そう実感できる一冊だ。

アジア極楽旅行 (徳間文庫)
下川 裕治
徳間書店
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おすすめ度の平均: 3.5

3 ごちゃまぜエッセイ
4 比較文化論の論文が書けるかも
3 珍しく問題意識が前面に

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アジア怪食紀行 小泉武夫

著者は食の冒険家の異名をとる発酵学の権威・小泉武夫。笑いあり涙なしの爆笑珍道中を繰り広げながらアジア各地の奇食の数々をレポートする。2001年単行本刊行。文庫もあり。

目次は次の通り。

ラオス
1.石ガメの蒸し焼きと大ネズミの燻製
2.蛹(さなぎ)の粉の蒸しパンとモッ・カイ・パ
3.ナマズの香り蒸しとカイ・ルゥク
4.山岳民族のメコンウィスキー

ベトナム
1.雷魚のカレー炒めとイエトカゲの生春巻き
2.ナスの仔豚脳みそ詰め
3.ニョク・マムと淡水魚の刺身
4.泥ガメの串焼きとメコンウィスキー

韓国
1.木浦(モッポ)のホンオで涙に咽(むせ)ぶ

モンゴル
1.羊肉の塩茹でと血の腸詰
2.草の海の乳の酒

ウイグル
1.羊のハンバーガー
2.焙り肉シシカバブと白酒(パイチュウ)
3.内陸最奥地の魚と乾燥蛇
4.砂トカゲの姿焼き
5.天然塩と羊のナーン挟み
6.オアシスが育んだぶどう

ミャンマー
1.激辛ナマズと淡水魚の串刺しカニ味噌だれ
2.食べる発酵茶と淡水魚の塩引き
3.浮島で食べたタウナギのクギ揚げ
4.カエルの空揚げ、雑魚の魚醤そして炒り蛹(さなぎ)
5.薬材売りから買った熊の肝(きも)
6.万能調味料ガピとトンガラシソース

中国
1.血豆腐の百菜包み蒸しとスタミナ団子
2.竹虫の蛹老麺と竹酒
3.蛇の炒めものと蛇酒
4.偉大な中国の五大食思想

本書のみどころは、もちろん奇食グルメの数々もそうなのだが、何といっても著者・小泉武夫のその特異なキャラクターだろう。珍しい料理や食べ物と出会うたびに狂喜乱舞し、そのためならどんな辺境にも赴く。そんな面白キャラは言葉を軽く越えて現地の人たちと心を通わし、ともに酒を飲み、歌い、踊る。漫談のような語り口だが、そんなことしなくても十分爆笑ものの珍道中っぷりである。あんまり楽しく読めるので、普段はゲテモノとして敬遠してしまいそうな奇食もなんだか身近に思え、目の前にあれば口にしてしまいそうだ。数ある旅行グルメ本において、名作中の名作と言えるだろう。

アジア怪食紀行
アジア怪食紀行
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小泉 武夫
徳間書店
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おすすめ度の平均: 4.0

4 インドシナ半島って…

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秘密のミャンマー 椎名誠

Posted 1月 3rd, 2010 by kzmr and filed in 椎名誠

あの椎名誠が謎のベールに包まれた国・ミャンマーへの旅行を綴った紀行文。
2003年単行本刊行。2006年文庫化。

今回椎名誠一行が向かったのはミャンマー。軍事政権下の国で、自由な行動は許されておらず、決して旅をしやすい国とは言えない。「あやしい探検隊」などで、辺境や大自然を何度も旅してきた椎名誠はそんなミャンマーの何を見て、どう感じるのか。

本書でもシーナ流は健在だ。お寺の境内で草野球をするなど、他の作家や旅人ではありえないだろう。また食事や人々についてもざっくばらんな物言いで爽快。

しかしながら、ミャンマーを旅したことのある人にとっては、旅の行程やアクティビティがスタンダード過ぎて、物足りない感があるはずだ。加えて言うなら、ミャンマーの少数民族問題や彼らの文化に対する理解はもっと深めた方がいい。

とは言え、ミャンマーに興味があり行ってみたいと思っている人には恰好の入門書となるだろう。各々の旅で興味のあるジャンルを掘り下げていけばいいのだ。ミャンマーには掘り下げるだけの深さと、各自の興味に応える広さがある。

秘密のミャンマー
秘密のミャンマー
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椎名 誠 山本 皓一
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おすすめ度の平均: 2.0

1 最低。
1 がっかり
4 アジア好きには評価がわかれるかも・・
3 たとえ○んこの一流れ、二流れ

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全東洋街道(下) 藤原新也

全東洋街道は藤原新也が1980~81年にかけてトルコから高野山までの自身の旅を記録したフォトドキュメンタリー。
1982年毎日芸術賞受賞作。

本書下巻はチベット、タイ・チェンマイ、ビルマ・ラングーン、上海、香港、ソウル、そして高野山。
上巻から引き続き、概念的なのに忠実でもある独特の描写と、芸術的とさえ言える写真で綴っている。

まず印象的だったのは、チベット・ラダック地方のさらに山奥の辺鄙な寺で、その僧侶と同じく極限まで切り詰めた生活を行うことだ。
食事に関しては、夕食がない上に主食はパパという土のかたまりのようなもの。著者は五日目まで心身ともに衰弱してゆく。
そして六日目。

私は六日目の舌の革命というものを未だ忘れ難く思い出す。人の生きていく力の神秘に今でも驚いている。その六日目、私は忽然とあの大きな土のかたまりのようなものを全部たいらげた。とつぜん、それに味を感じ、おいしいと感じはじめたのだ。この時、今までほとんど私のことに関心を寄せなかった僧たちの顔に笑みが浮かんだのを見て私は内心ドキリとした。

舌の革命。
これは本当に経験した者にしかできない表現だ。
こういうフレーズに出会えるから旅行記や紀行文は面白い。

ビルマ・ラングーン、チェンマイ、上海を経て、香港へ。
ここで著者は、かつて豚の膀胱を浮き輪がわりに広東から泳いで渡ってきた兄弟と出会う。
このくだりはほとんどがその兄弟の声で展開されるのだが、妙に心に響いてきた。

・・・思えばもうあれから十四年も経ってるわけだな。こんなみすぼらしい生活やってるから家族に手紙も書けない始末だ。

そして雪のソウルを経て、高野山へ。
ここでこの1年以上に渡る東洋の旅を振り返る。

キリスト教、イスラム教、ヒンドゥ教、仏教。
鉱物世界と植物世界。抽象環境と自然環境。
これらのキーワードで東洋を総括し、東洋の東の果て、日本を思索する。

本書に綴られているのはほぼ30年も前の東洋の異国のことである。
にも関わらず、ものすごくノスタルジーに近い感情を呼び起こされる。
異国の地であるのに、どういうわけか原風景に出会ったような不思議な気持ちになることがあるが、まさにそういった不思議な気持ちに何度もさせられてしまう。
本書を読むという行為はそれ自体が一つの旅と言えるかもしれない。

全東洋街道 下 (2) (集英社文庫 153B)
藤原 新也
集英社
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おすすめ度の平均: 4.5

4 チベットの空
5 フスマを食べる・・?

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