てくてくカメラ紀行 石川文洋

Posted 10月 10th, 2010 by kzmr and filed in 石川文洋

報道カメラマン石川文洋がカメラを持って徒歩で日本縦断した。
風景、人々、動植物。様々なものにカメラを向けて日本を綴る。

石川文洋65歳。
2003年7月15日、日本の最北端、北海道・宗谷岬を徒歩で出発して、
同年12月10日沖縄・那覇に到着。日本海に沿って3300km歩いた。
本書は道中で撮影した様々な写真とその土地ごとの感想やコラムで構成されている。

石川文洋と聞くと戦場カメラマンというイメージが強いのだが、
それらの土地へ以前に撮影で訪れた際の回想も多く、
実はこれまでに様々な物事を撮影してきたということが分かる。
本書に収められている写真や文章はノンテーマなだけに
その知見の幅広さや愛すべき人となりがダイレクトに伝わる。

本当にじんわりと面白くなってくる本だ。

舞台は現代の日本で、当然誰もが通れる道を進んでいるわけだから、
そうそう目新しいものがあるわけではないのだが、どこか異国のように錯覚することがある。
そのフィルターはもちろん著者の戦場を主とした様々な経験で培われたものだろうが、
徒歩というもっともスローな移動手段での旅によるところもかなり大きいのではと思う。

おそらく、ある地点から別の地点へ素早く移動してしまうと、
大きな変化に目を奪われて、微細な変化には気付きにくくなるのではないか。
ゆっくりした移動だからこそ、多くの人が目を止めない微細な変化に敏感になることができ、
まるで異国にきたかのような発見の連続が可能になるんじゃないか。

恥ずかしながら、僕自身、横浜から新潟・直江津まで徒歩で旅したことがあるのだが、
土地から土地へ少しづつ移動していく日々、「雰囲気」がなんとなく変化していくのを感じた。
学生だった当時の僕はあまりに無知で、「雰囲気」を言葉に置き換えることができなかったし、
歴史を知らず、動植物の名も知らず、今でも「雰囲気」しか思い出すことができないけれども。

しかし石川文洋にはカメラがあり、多くの経験と知見がある。
ぜひ本書を手に取り、著者の昔話などに耳を傾けながらゆっくり日本を再発見していただきたい

あぁ、てくてく歩いて旅したい。

てくてくカメラ紀行―北海道‾沖縄3300キロ (エイ文庫)
石川 文洋
エイ出版社
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地雷を踏んだらサヨウナラ 一ノ瀬泰造

26歳でこの世を去った戦争カメラマン一ノ瀬泰造の書簡集。写真の掲載も多数。

著者の一ノ瀬泰造は1972〜1973年にかけてベトナム・サイゴン(ホーチミン)、 カンボジア・プノンペン、同じくシェムリアプなどで、ベトナム戦争やカンボジア内戦を取材。 多くの写真を撮影した。UPIニュース写真月間最優秀賞も受賞している。本書に収められている書簡は、そのときに日本にいる両親や友人、先生等に宛てたものである。 1999年浅野忠信主演で映画化され、話題となった。

本書で浮かび上がる素顔の一ノ瀬泰造は、野心的で、無謀で、そして底抜けに明るい。

そんな若さの溢れる著者だったから戦争の悲惨さを撮り続けることができたのだろう。まさに命をかけて、好きなこと=写真に取り組んだその姿はあまりにも眩しい。

若さとはこんなに素晴らしいものだったのかと感動せずにはいられなかった。

ぜひ若者に読んでほしい一冊だ。 また、僕自身息子がいる立場になったからだろうか、改めて読み返すと、 息子の活躍を喜びながらも身を案じる母親の文面にひどく共感してしまった。 カンボジアでその亡き骸を確認したときの両親の姿を思うと、込み上げてくるものがある。

最後に、一ノ瀬泰造が目指したアンコールワットは、今や最もポピュラーな世界遺産の一つだ。 確かに素晴らしい建造物でレリーフも美しく、芸術的にも見るべきところは多いだろう。 しかし、かつてはクメール・ルージュの拠点であり、弾痕もまだ残っている。 撤去が進んでいるものの周辺には地雷もまだ埋まったままだ。

訪れる機会があれば、カンボジアの痛々しい歴史にもぜひ目を向けて欲しい。

地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)
一ノ瀬 泰造
講談社
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ミャンマー 失われるアジアのふるさと 乃南アサ

Posted 2月 10th, 2010 by kzmr and filed in 乃南アサ

軍事政権に対する僧侶のデモやサイクロン被害など、依然ネガティブなニュースが後を絶たないミャンマー。しかしながら旅行者の間では旅行前と後で大きく印象が変わる国として知られ、リピーターが非常に多い。そんなミャンマーで作家・乃南アサは何を見てどう感じたか。2008年6月刊行。

ヤンゴンやマンダレーといった都市、そしてインレー湖やバガンといった景勝地での出来事が断片的に綴られており、時系列にルートに沿って展開していくことの多い一般的な旅行記とは読み心地が大きく異なる。さすが作家(といっては失礼か)、一つ一つの場面の描写が美しく情景的だ。特に夜明けの世界三大仏教遺跡の一つバガンの仏塔群の描写はぐっと引き込まれた。章が終わるたびに、短編小説を一つ読み終えたかのような気にさせられた。ふんだんに配置されている美しい写真(撮影、坂斎清)もそれに一役買っているだろう。また、全く見返りを求めない無償の親切に対してどう報いたらいいのか著者が悩む場面があるのだが、僕自身もミャンマーで全く同じ経験があり、とても親近感がわいた。

ここまでつらつらといい場面ばかり述べたが、単純に叙情的で楽しい旅行記というわけではない。特に政治的な話題に言及しているときは非常にリアルで迫ってくるものがある。本書のエンディングで、日本語を勉強している若い僧侶が軍事政権に対する思いを憤りつつ語る。「今、ミャンマーの政治は悪いです。最低です」否応なしに2007年の僧侶のデモを想起させる言葉だ。冒頭にもあるが、日々実直にそして静かに仏に仕えてきた僧たちは、どれほどの思いを込めて起ちあがったのか。それを想像するだけでぐっと込み上げてくるものがある。

まとめると、本書では異国情緒に溢れる描写を楽しむことができ、さらにミャンマーという国の実情にも触れることもできるだろう。非常にバランスのとれた一冊だ。ミャンマーを直接自分の目で見て感じたいと思わせる力に満ちている。

ミャンマー―失われるアジアのふるさと
乃南 アサ
文藝春秋
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4 前書きが全てを語る
5 美しく、そして切ない国
5 初めての乃南アサ

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さらば、ガク 野田知佑

Posted 1月 4th, 2010 by kzmr and filed in 野田知佑

漂泊のカヌーイスト野田知佑とともに日本や世界各地の川を下った世界初のカヌー犬ガクの写真集。実父(野田知佑)と養父(椎名誠)の追悼対談も収録されている。
2002年9月刊行。

釧路川、四万十川、ユーコン川、ノアタック川他。ガクはその14年の生涯で、野田知佑&その友人たちとともにたくさんの川を下り、またその大自然のなかでともに過ごした。「ガクが隊の一員であると主張してでかい顔してる」という焚き火のまわりの写真をはじめ、野田知佑と「対等なつき合い」をしていたカヌー犬ガクの姿はとても気高い。

この写真集はガクをもの珍しいカヌー犬として、アイドル的にもてはやしたものではない。その証拠に野田知佑はガクの死後、その毛皮でチャンチャンコをこしらえる。野田にとって、犬を飼うとはそこまですることなのだという。

「ぼくはガクに何もしつけをしなかった。彼を六年間預かってくれた椎名も同じだ」
「犬とふたりきりで荒野にいると、生き物として対等になる」
「好きなときに漕ぎ、好きなときに眠る」
「川旅中のガクとぼくの食事はだいたい同じだ」

これらの言葉やガクの写真を見て僕らが学ぶことができるのは、決して人間上位にならない犬との本当の付き合い方だ。そして僕らのもっとも近くにいる動物である犬との付き合い方を知ることは、もっと大きな意味を持つような気がしてならない。犬と僕らの関係がガクと野田知佑の関係に近づいていくとき、人間は動物や自然ともう少しうまくやっていけるんではないだろうか。少なくとも馬鹿げた行為はなくなるはずだ。

なにはともあれ、ガクが手付かずの自然のなかで生き生きと輝く姿を見てほしい。もしあなたの側にもパートナーがいるのなら、きっと一緒に出かけたくなるだろう。

さらば、ガク (文春文庫)
野田 知佑
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5 犬とこんな関係でありたい
5 素敵な旅を有難う。
5 野田氏の心の痛み
5 自然と犬が好きな人のための本

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印度放浪 藤原新也

Posted 12月 23rd, 2009 by kzmr and filed in 藤原新也

旅本の大御所・藤原新也の処女作。1972年発表。
1960年代後半に一人、カメラを手にインド全土を放浪した記録である。
芸術的な写真と詩のような文章で綴られる独特のスタイルはここに始まった。

さてどう紹介したらいいものか。一筋縄じゃいかない。帯の言葉を引用する。

近代という病いの末期に生きる一人の青年が、原初の土地=インド亜大陸を巡りつつ、蝕まれた肉体と精神を恢腹していく——行動する思索家・藤原新也の処女作。

これで少し空気感を感じてもらえるかもしれない。僕はまだ生まれていないが、60年代といえば、ベトナム戦争や学生運動、安保闘争、高度経済成長による物質主義など、「これでいいのか?」という疑問がその時代を生きた人、特に若者に強烈に芽生えた時代だったのだと思う。
そんな時代に若かりし藤原新也はインドへと飛び出した。今でこそインドの情報は満ち満ちているが、当時はわずかだったろう。
未知といってもいいインドへ著者を駆り立てたもの。本書でも言及されているが、一言で言えば若さだと思う。若さゆえの無謀さと言ってもいいかもしれない。さらにその若さ・無謀さはインド放浪を経て、本書に見られる前衛的な写真と文章という表現に昇華した。
この表現が一時的な流行で終わることなく、今でもなお色褪せないのは、一人の若者の魂に共鳴するからだ。
今でこそカジュアルなインド旅行は珍しくなく、むしろ主流になっている感すらあるが、インドへの旅と聞くとどこか哲学的で厭世的な印象を受けるのは本書が少なからず影響しているのだろう。
説明を重ねてもしょうがない気がしてきた。
とにかく、永遠の名著だ。

印度放浪 (朝日文庫)
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藤原 新也
朝日新聞
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おすすめ度の平均: 4.0

5 衝撃だった。
3 情熱的、絵画的ですが・・
5 才能に出会った。静かで、真摯な、人生に対する一つの視点
3 青春の「熱」を感じる本
4 写真が良い。あの美しい少女は今頃・・・

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