あの空の下で 吉田修一

小説家・吉田修一が2007〜2008年にかけてANAの機内誌『翼の王国』で連載していた短編小説・エッセイを収録。2008年10月単行本刊行。2011年5月文庫化。

著者・吉田修一は「パークライフ」「パレード」「東京湾景」などの代表作があり、さらに2010年公開され妻夫木聡と深津絵里が出演した映画「悪人」の原作者と言えば多くの人の知るところだろう。その吉田修一の旅や飛行機にまつわる短編小説、そしてエッセイがまとめられている。

吉田修一と旅という組み合わせに新鮮さを感じたのはきっと僕だけじゃないだろう。

都会派というイメージがすごく強くて、特に「パークライフ」。初めて読んだときは地方の学生だった僕に東京のイメージを深く刻みつけてくれた。舞台が東京だったり背景というというのもあるけど、やはり作風かな。淡々とクールにストーリーが展開して、淡白な人間関係のなかにどこか本質的なものが表現されているというか。うまく言えないけど。ともあれ、旅などという都会とは真反対のものに対しての文章なので、とてもわくわくして本書を手に取った。

まず12編収録されている短編小説。こちらはいずれもショートショートとも言えるような5分ほどで読める分量だが、いずれも心がフッと軽くなる話。そんな短い文章で登場人物のキャラを立てて感情移入させることができるのはほんとに素晴らしい。僕は陸の上で読んだけれども、機上で読めば旅前のわくわくや旅後の感慨をよりより強めてくれたことだろう。

そしてバンコク、ルアンパバン、オスロ、台北、ホーチミン、スイスにまつわる6編のエッセイ。個人的にはこちらが最大の見どころだった。

各土地での決してドラマチックではない出来事が綴られているのだがそれがいい。

「心細さとは決していい感情ではないのだろうが、旅先でふとこの感情に触れた時、次に目にする風景が、期待以上に鮮烈で、忘れがたいものになることがある」
「旅先で見つける普通というのは、なぜこんなにも愛おしいのだろうか」
小説と同様に洗練されたオシャレな文章だけど誰にでもよくある旅の一場面でのこういった思いに強く共感できた。
吉田修一は案外都会派ではないのかもしれない。

本書の一編を機上で読むことができた方はとても幸福だったと思う。
でも陸の上とはいえ僕らはこれをまとめて続けて一気に読めるのでそれはそれでとても幸福なことだ。

あの空の下で (集英社文庫)
吉田 修一
集英社 (2011-05-20)
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あなたと、どこかへ 吉田 修一、石田 衣良、川上 弘美、甘糟 りり子、谷村 志穂、林 望、角田 光代、片岡 義男

Posted 3月 1st, 2010 by kzmr and filed in その他

車で出かける場面を用意することだけを約束事とした8人の作家による短編集。
1編が非常に短く5分程度で読めるにもかかわらず、吉田修一や石田衣良といった今をときめく作家たちの独特の空気感を楽しむことができる。

特におススメは石田衣良の「本を読む旅」。
主人公は10冊のお気に入りの本を持って車で旅に出る。
そして、人影まばらなリゾートホテルで本を楽しみ、散歩し、食事する。
要約してしまえばただそれだけのこと。何が起こるわけではない。
しかし、10冊の本を持った旅に対する憧憬がふつふつとわきあがってきた。

あなたと、どこかへ。 (文春文庫)
吉田 修一 石田 衣良 川上 弘美 甘糟 りり子 谷村 志穂 林 望 角田 光代 片岡 義男
文藝春秋
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ホノカアボーイ 吉田玲雄

Posted 1月 1st, 2010 by kzmr and filed in 吉田玲雄

ハワイ島・ホノカアの古い映画館で映写技師として働いた日々がゆるやかに綴られている著者の実体験をベースとした物語。2006年に単行本刊行。2009年同名で映画化。同じく2009年文庫化。

ホノカアは、ハワイ島の住民ですら「なにもないところで退屈でしょ」と言うほどの小さな村。そのホノカアに70年の歴史のある古い映画館があり、著者はそこで映写技師として働くことになる。

ドラマティックな出来事があるわけではなく、魅力的なローカルな人たちや日々のことが、ゆるやかな空気感で、ほんわかと描かれている。ユーモラスに描写されているが、映画や自然、そしてホノカアに対する愛が行間に満ちていて、読んでいてとても心地いい。特にビーさんという料理が上手で粋なおばあちゃんとのラストシーンはあたたかい涙が込み上げてきた。

旅本(旅に出たくなる本)には鉄板の共通項がある。
それはローカル(現地の人々や文化)に対する尊敬や愛があることだ。
本書はそれを200%満たしていると言えるだろう。
いつかハワイ島に行かねば。
絶対に行きたい場所がまた一つ増えた。

最後に著者のバックグラウンドが興味深かったので紹介しておく。
著者の吉田玲雄はライター・写真家という紹介が多いが、モデルとしてのキャリアもあり非常に男前。そして本書中で鞄屋と紹介されている著者の父は「Porter Classic」(吉田カバンのメインブランド)の代表取締役・吉田克幸。なお著者自信も現在取締役を務めている。最後にもう一つ。父の知人として登場する日本の女優「キョン」とは小泉今日子のことで、映画版では主題歌を務めた。

ホノカアボーイ (幻冬舎文庫)
吉田 玲雄
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5 懐かしきホノカア。。。
5 ほんわか
4 ホノカアボーイ

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深い河 遠藤周作

Posted 11月 28th, 2009 by kzmr and filed in 遠藤周作

ガンジス川沿いの聖地バラナシを主な舞台とした遠藤周作の代表作。
1994年毎日芸術賞受賞作。

それぞれの理由を抱えてインドへのツアーに参加した数名の人物が主人公。
汚物も信仰も、野良犬も聖者も、そして生死も、あらゆるものを受け入れるガンジス川。
そのガンジスのほとりで、彼らの人生が洗い出され、そしてあるべく方向に流れていく。

決して救われるストーリーではない。
しかし、主人公たちそれぞれの結末も、そして読者である僕らにつきつけられた
さまざまな思考や感情も、ガンジスの流れに優しく溶解していくようだ。

もしガンジス川を訪れた経験がないなら、ぜひ読んでいただきたい。
まず間違いなく、近々インドへの旅行を計画し始めることになるだろう。

深い河 (講談社文庫)
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遠藤 周作
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2 消化不良
4 何度読んでも飽きの来ない懐の深さ
3 河のゆくえ
3 微妙……。
5 日本人として西洋の神 キリストの存在を追いかけ続けた遠藤周作の意外な集大成の著

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ガラスの宮殿 アミタヴ・ゴーシュ

Posted 11月 18th, 2009 by kzmr and filed in アミタヴ・ゴーシュ

インド、ビルマ、マレーシアを主な舞台として、激動の19世紀後半から
現代へと続く20世紀前半を生きた人々を壮大なスケールで描いた物語。
著者は在米インド系作家のアミタブ・ゴーシュで本書は世界的ベストセラーとなった。

18世紀後半のビルマ・マンダレーで物語は始まる。
ここでインド人の孤児と王宮に使える侍女が出会い、
彼らを中心に激動の時代と彼らの人生が描かれている。
登場人物たちは、宗教、人種、帝国主義など、様々な問題に直面。
彼らは懸命に乗り越え、ときに悲しい犠牲を払いながら、物語は現代へ続いている。

ガイドブックやネットで予備知識を得て、その都市や地域に実際に訪れ、歴史や文化に直接触れる。
これが通常の旅の一連の流れだが、それだけで何か分かったような気がしてしまうことが多々ある。
この物語を読んで、数年前のビルマへの旅を思い出しながら、その浅はかさを強烈に痛感した。
何も知らずにただインド人の世界進出力はすごいなと思いながら歩いたあのヤンゴンのインド人街。
もし今歩いたら彼らのバックグラウンドを想像してしまって涙が出るかもしれない。

そうだ。いい例えが思い浮かんだ。幕末だ。
僕らがその時代の熱さを知るのは、日本史の教科書や年表からではない。
坂本龍馬をはじめとする、その時代に生きた人々の熱い生き様を、
テレビか小説か、あるいはその他の何かで、物語としてインプットしたからだ。

ときに物語は、ガイドブックや紀行文よりも旅を豊かなものにしてくれる。
そう強く感じた一冊だった。

ガラスの宮殿 (新潮クレスト・ブックス)
アミタヴ ゴーシュ
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おすすめ度の平均: 4.0

3 いつか映画化される日を願って。。
5 影の主役はビルマ

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