だから混浴はやめられない 山崎まゆみ
温泉ライターとして10年以上のキャリアがある著者が混浴の魅力を余すことなく綴った一冊。2008年10月刊行。
少子化や単独世帯の増加で、家族の団欒というものが減ってきている現代。また、かつて盛んに行われていたが、なくなりつつあるご近所づきあい。希薄になりつつある人との触れ合いの原点にも思えるのが、混浴風呂での出会いであり語らいである。
前書きより抜粋
冒頭のこの文章からも分かるように、キャッチーで挑戦的な本書のタイトルとは裏腹で、いたって真剣に混浴風呂の魅力が綴られている。色っぽい内容だけを期待して開く本でないことはたしかだ。
目次
第1章 そこは恋が始まる場
第2章 主導権を握るのは、やっぱり女性
第3章 失われた原風景を求めて
第4章 良質な湯と豊富な量、そこは理想の温泉郷
第5章 混浴に学ぶ人としての作法
第6章 混浴というセラピー
第1章は思わせぶりな見出し。男性からすれば女性と混浴なんて想像するだけで素敵だけど、
喜びましょう、女性の目から見ても混浴風呂では男性が色っぽく見えているらしいですよ!
でも実際本当にその場に出くわすと案外ガチガチになってしまう気がするな。第2章では一度慣れてしまうと、より混浴を楽しんでいるのは女性の方だよというような内容。なんか納得。
さ て、本書の真骨頂はここから。第3章、第4章では混浴の成り立ちや行為を掘り下げ、本質に迫っていく。スケベ心で読み始めた人もガッカリするどころか、 きっと引きこまれていくはず。
著者の豊富な知識や経験にもとづく考察が面白いというのもあるけど、やはり混浴そのものが奥深いということなんだろう。
第5章、第6章では著者のこれまでの経験や出会いをもとに、混浴から得られる学びや癒しが実例をもって紹介される。けっこうじんわりくる話もあり、読み終えたときにはそれこそ温泉から出てきたばかりのようなほっこりした気分になった。
さしづめ混浴の入門書と言ってよいかもしれないが、「だから混浴はやめられない」というタイトルどおり、著者がいかに混浴に魅力を感じているかが強く伝わってくる。かなり熱い混浴入門書だ。混浴という文化が細々ながらも残っている日本に生きていてよかったと素直に思う。
さてさて。巻末に著者の薦める混浴温泉ベスト50が掲載されているのである。いくしかないでしょ!


空白の五マイル 角幡唯介
チベット奥地のツアンポー峡谷。著者・角幡唯介はその世界最大の峡谷の探険史を解きほぐし、人跡未踏である空白の5マイルを埋めるべく自ら足を踏み入れる。第8回開高健ノンフィクション賞受賞作。
amazonの紹介より抜粋
チベットの奥地にツアンポー峡谷とよばれる世界最大の峡谷がある。この峡谷は一八世紀から「謎の川」と呼ばれ、長い間、探検家や登山家の挑戦の対象となっ てきた。チベットの母なる川であるツアンポー川は、ヒマラヤ山脈の峡谷地帯で姿を消した後いったいどこに流れるのか、昔はそれが分からなかった。その謎が 解かれた後もツアンポー峡谷の奥地には巨大な滝があると噂され、その伝説に魅せられた多くの探検家が、この場所に足を運んだ。
早稲田大学探検部に所属していた私は大学四年生の時、たまたま手に取った一冊の本がきっかけでこの峡谷の存在を知った。そして一九二四年に英国のフラン ク・キングドン=ウオードによる探検以降、ツアンポー峡谷に残された地理的空白部の踏査が一向に進んでいないことを知った。キングドン=ウオードの探検は ほとんど完璧に近く、彼の探検によりこの峡谷部に残された空白部はもはや五マイル、約八キロしかないといわれていた。しかし残されたこの五マイルに、 ひょっとしたら幻とされた大滝が実在するかもしれない。キングドン=ウオードの残したこの「空白の五マイル」は、探検が探検であった時代の舞台が現代まで 残されている、おそらく世界で最後の場所だった。私は空白の五マイルを含めたツアンポー峡谷の核心部をすべて探検しようと心に決め、一九九八年に部の仲間 と一緒にツアンポー峡谷に向かった。
読み始めてまず気付くのは本書はただ単に探検を記したものではないということだ。
探険史を丹念に解きほぐして、実際に当事者にインタビューをするなど取材が徹底されており、ツアンポー峡谷に挑んだ探検家たちがリアルに描き出されている。
悲しい事件の背景に迫る部分では熱く込み上げてくるものがあるだろう。
そういった歴史を踏まえて自らツアンポー峡谷の空白の5マイルを目指す著者の探検に感情移入せずにはいられない。
最後に「空白の5マイル」という本書のタイトル。
無条件に読むべき本だと判断してしまったがやはり間違っていなかった。
読む前のワクワク感が読後、静かな深い感動に変わる。傑作中の傑作。
集英社
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メコン・黄金水道をゆく 椎名誠
2003年、世界の辺境を知る椎名誠がインドシナ半島を壮大なスケールで流れるメコン河を旅した。45日間かけてメコン河沿いにラオスからカンボジア、ベトナムと下った紀行文。
2004年単行本刊行。文庫もあり。
道のりはおおよそ以下の通り。
【ラオス】
シェンコック→ルアンナムター→ウドムサイ→ルアンパバーン→パクセ
【カンボジア】
シェムリアプ→トンレサップ湖→プノンペン
【ベトナム】
チャウドック→カントー→チャービン
椎名誠の紀行文は本当に安心して読むことができる。ざっくばらんな感じで楽しく読めるのに、現地の人たちの営みや文化に対する観察眼は鋭い。鋭いだけでなく、あたたかい敬意が込もっているので、僕らは素直に驚き、感動できるのだ。本書はその良さがすごく出ていて、椎名誠の代表作と言っていいのではないかと思う。僕自身メコン河を何度か旅行で訪れたこともあり、特別な思い入れがあるからかもしれないが。
メコン河ならではの多彩な漁法。
豊かな自然そのままの食文化。
質素ながらも力強く生きる人々。
読めば読むほど強烈に旅したい気持ちにかられてくる。随所に出てくる写真もいい。
メコンへの旅行を考えている人にとってはよき入門書になるであろう。
しかし、それ以上に、旅したことがある人におすすめしたい旅本だ。
そのとき言葉にできなかった感動が、ここに表現されている。
集英社
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壮大でゆったりとしたメコンと時間の流れがそこにはある
「アジアのアマゾン」を縦断する旅


さらば、ガク 野田知佑
漂泊のカヌーイスト野田知佑とともに日本や世界各地の川を下った世界初のカヌー犬ガクの写真集。実父(野田知佑)と養父(椎名誠)の追悼対談も収録されている。
2002年9月刊行。
釧路川、四万十川、ユーコン川、ノアタック川他。ガクはその14年の生涯で、野田知佑&その友人たちとともにたくさんの川を下り、またその大自然のなかでともに過ごした。「ガクが隊の一員であると主張してでかい顔してる」という焚き火のまわりの写真をはじめ、野田知佑と「対等なつき合い」をしていたカヌー犬ガクの姿はとても気高い。
この写真集はガクをもの珍しいカヌー犬として、アイドル的にもてはやしたものではない。その証拠に野田知佑はガクの死後、その毛皮でチャンチャンコをこしらえる。野田にとって、犬を飼うとはそこまですることなのだという。
「ぼくはガクに何もしつけをしなかった。彼を六年間預かってくれた椎名も同じだ」
「犬とふたりきりで荒野にいると、生き物として対等になる」
「好きなときに漕ぎ、好きなときに眠る」
「川旅中のガクとぼくの食事はだいたい同じだ」
これらの言葉やガクの写真を見て僕らが学ぶことができるのは、決して人間上位にならない犬との本当の付き合い方だ。そして僕らのもっとも近くにいる動物である犬との付き合い方を知ることは、もっと大きな意味を持つような気がしてならない。犬と僕らの関係がガクと野田知佑の関係に近づいていくとき、人間は動物や自然ともう少しうまくやっていけるんではないだろうか。少なくとも馬鹿げた行為はなくなるはずだ。
なにはともあれ、ガクが手付かずの自然のなかで生き生きと輝く姿を見てほしい。もしあなたの側にもパートナーがいるのなら、きっと一緒に出かけたくなるだろう。
文藝春秋
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犬とこんな関係でありたい
素敵な旅を有難う。
野田氏の心の痛み
自然と犬が好きな人のための本


ホノカアボーイ 吉田玲雄
ハワイ島・ホノカアの古い映画館で映写技師として働いた日々がゆるやかに綴られている著者の実体験をベースとした物語。2006年に単行本刊行。2009年同名で映画化。同じく2009年文庫化。
ホノカアは、ハワイ島の住民ですら「なにもないところで退屈でしょ」と言うほどの小さな村。そのホノカアに70年の歴史のある古い映画館があり、著者はそこで映写技師として働くことになる。
ドラマティックな出来事があるわけではなく、魅力的なローカルな人たちや日々のことが、ゆるやかな空気感で、ほんわかと描かれている。ユーモラスに描写されているが、映画や自然、そしてホノカアに対する愛が行間に満ちていて、読んでいてとても心地いい。特にビーさんという料理が上手で粋なおばあちゃんとのラストシーンはあたたかい涙が込み上げてきた。
旅本(旅に出たくなる本)には鉄板の共通項がある。
それはローカル(現地の人々や文化)に対する尊敬や愛があることだ。
本書はそれを200%満たしていると言えるだろう。
いつかハワイ島に行かねば。
絶対に行きたい場所がまた一つ増えた。
最後に著者のバックグラウンドが興味深かったので紹介しておく。
著者の吉田玲雄はライター・写真家という紹介が多いが、モデルとしてのキャリアもあり非常に男前。そして本書中で鞄屋と紹介されている著者の父は「Porter Classic」(吉田カバンのメインブランド)の代表取締役・吉田克幸。なお著者自信も現在取締役を務めている。最後にもう一つ。父の知人として登場する日本の女優「キョン」とは小泉今日子のことで、映画版では主題歌を務めた。
幻冬舎
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懐かしきホノカア。。。
ほんわか
ホノカアボーイ

