空白の五マイル 角幡唯介

Posted 9月 21st, 2011 by kzmr and filed in 角幡唯介

チベット奥地のツアンポー峡谷。著者・角幡唯介はその世界最大の峡谷の探険史を解きほぐし、人跡未踏である空白の5マイルを埋めるべく自ら足を踏み入れる。第8回開高健ノンフィクション賞受賞作。

amazonの紹介より抜粋

チベットの奥地にツアンポー峡谷とよばれる世界最大の峡谷がある。この峡谷は一八世紀から「謎の川」と呼ばれ、長い間、探検家や登山家の挑戦の対象となっ てきた。チベットの母なる川であるツアンポー川は、ヒマラヤ山脈の峡谷地帯で姿を消した後いったいどこに流れるのか、昔はそれが分からなかった。その謎が 解かれた後もツアンポー峡谷の奥地には巨大な滝があると噂され、その伝説に魅せられた多くの探検家が、この場所に足を運んだ。

早稲田大学探検部に所属していた私は大学四年生の時、たまたま手に取った一冊の本がきっかけでこの峡谷の存在を知った。そして一九二四年に英国のフラン ク・キングドン=ウオードによる探検以降、ツアンポー峡谷に残された地理的空白部の踏査が一向に進んでいないことを知った。キングドン=ウオードの探検は ほとんど完璧に近く、彼の探検によりこの峡谷部に残された空白部はもはや五マイル、約八キロしかないといわれていた。しかし残されたこの五マイルに、 ひょっとしたら幻とされた大滝が実在するかもしれない。キングドン=ウオードの残したこの「空白の五マイル」は、探検が探検であった時代の舞台が現代まで 残されている、おそらく世界で最後の場所だった。私は空白の五マイルを含めたツアンポー峡谷の核心部をすべて探検しようと心に決め、一九九八年に部の仲間 と一緒にツアンポー峡谷に向かった。

読み始めてまず気付くのは本書はただ単に探検を記したものではないということだ。
探険史を丹念に解きほぐして、実際に当事者にインタビューをするなど取材が徹底されており、ツアンポー峡谷に挑んだ探検家たちがリアルに描き出されている。
悲しい事件の背景に迫る部分では熱く込み上げてくるものがあるだろう。
そういった歴史を踏まえて自らツアンポー峡谷の空白の5マイルを目指す著者の探検に感情移入せずにはいられない。

最後に「空白の5マイル」という本書のタイトル。
無条件に読むべき本だと判断してしまったがやはり間違っていなかった。
読む前のワクワク感が読後、静かな深い感動に変わる。傑作中の傑作。

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡 唯介
集英社
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地雷を踏んだらサヨウナラ 一ノ瀬泰造

26歳でこの世を去った戦争カメラマン一ノ瀬泰造の書簡集。写真の掲載も多数。

著者の一ノ瀬泰造は1972〜1973年にかけてベトナム・サイゴン(ホーチミン)、 カンボジア・プノンペン、同じくシェムリアプなどで、ベトナム戦争やカンボジア内戦を取材。 多くの写真を撮影した。UPIニュース写真月間最優秀賞も受賞している。本書に収められている書簡は、そのときに日本にいる両親や友人、先生等に宛てたものである。 1999年浅野忠信主演で映画化され、話題となった。

本書で浮かび上がる素顔の一ノ瀬泰造は、野心的で、無謀で、そして底抜けに明るい。

そんな若さの溢れる著者だったから戦争の悲惨さを撮り続けることができたのだろう。まさに命をかけて、好きなこと=写真に取り組んだその姿はあまりにも眩しい。

若さとはこんなに素晴らしいものだったのかと感動せずにはいられなかった。

ぜひ若者に読んでほしい一冊だ。 また、僕自身息子がいる立場になったからだろうか、改めて読み返すと、 息子の活躍を喜びながらも身を案じる母親の文面にひどく共感してしまった。 カンボジアでその亡き骸を確認したときの両親の姿を思うと、込み上げてくるものがある。

最後に、一ノ瀬泰造が目指したアンコールワットは、今や最もポピュラーな世界遺産の一つだ。 確かに素晴らしい建造物でレリーフも美しく、芸術的にも見るべきところは多いだろう。 しかし、かつてはクメール・ルージュの拠点であり、弾痕もまだ残っている。 撤去が進んでいるものの周辺には地雷もまだ埋まったままだ。

訪れる機会があれば、カンボジアの痛々しい歴史にもぜひ目を向けて欲しい。

地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)
一ノ瀬 泰造
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印度放浪 藤原新也

Posted 12月 23rd, 2009 by kzmr and filed in 藤原新也

旅本の大御所・藤原新也の処女作。1972年発表。
1960年代後半に一人、カメラを手にインド全土を放浪した記録である。
芸術的な写真と詩のような文章で綴られる独特のスタイルはここに始まった。

さてどう紹介したらいいものか。一筋縄じゃいかない。帯の言葉を引用する。

近代という病いの末期に生きる一人の青年が、原初の土地=インド亜大陸を巡りつつ、蝕まれた肉体と精神を恢腹していく——行動する思索家・藤原新也の処女作。

これで少し空気感を感じてもらえるかもしれない。僕はまだ生まれていないが、60年代といえば、ベトナム戦争や学生運動、安保闘争、高度経済成長による物質主義など、「これでいいのか?」という疑問がその時代を生きた人、特に若者に強烈に芽生えた時代だったのだと思う。
そんな時代に若かりし藤原新也はインドへと飛び出した。今でこそインドの情報は満ち満ちているが、当時はわずかだったろう。
未知といってもいいインドへ著者を駆り立てたもの。本書でも言及されているが、一言で言えば若さだと思う。若さゆえの無謀さと言ってもいいかもしれない。さらにその若さ・無謀さはインド放浪を経て、本書に見られる前衛的な写真と文章という表現に昇華した。
この表現が一時的な流行で終わることなく、今でもなお色褪せないのは、一人の若者の魂に共鳴するからだ。
今でこそカジュアルなインド旅行は珍しくなく、むしろ主流になっている感すらあるが、インドへの旅と聞くとどこか哲学的で厭世的な印象を受けるのは本書が少なからず影響しているのだろう。
説明を重ねてもしょうがない気がしてきた。
とにかく、永遠の名著だ。

印度放浪 (朝日文庫)
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藤原 新也
朝日新聞
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おすすめ度の平均: 4.0

5 衝撃だった。
3 情熱的、絵画的ですが・・
5 才能に出会った。静かで、真摯な、人生に対する一つの視点
3 青春の「熱」を感じる本
4 写真が良い。あの美しい少女は今頃・・・

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若き数学者のアメリカ 藤原正彦

Posted 11月 30th, 2009 by kzmr and filed in 藤原正彦

数学者である著者が1970年代前半、アメリカに研究員(後に助教授)として滞在したときのことを記した紀行文&エッセイ。
1978年日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。

本書は大きく以下の3つに分けることができる。
・ハワイ、ラスベガスを経由してミシガンへ向かう道のり。(紀行文)
・ミシガン大学での研究員としての生活。(滞在記)
・コロラド大学で助教授となってからの考察。(日米文化比較)

本書は色々な読み方ができるので、読む人によって感想も大きく異なるだろう。
僕が特に興味深かったのは前半のハワイ、ラスベガスだ。

ハワイではアメリカ人に囲まれながら日本人でただ一人真珠湾クルーズに参加し、アメリカ視点の解説に「アメリカ対私」という意識を強くする。
簡単に言えば「日本人をなめるな」ということだが、若さゆえの熱気が強く感じられ、数学者と言っても一人の若者なんだと親近感がわいた。
そしてラスベガスではギャンブルに熱くなり、なんだかんだと理屈をこねては挑み、結局当面の生活費まで注ぎ込んでしまう。
まるで名著『深夜特急』を読んでいるようだ。

とは言え、若さだけで終わらないのも本書の面白いところ。
中盤ではミシガンでの研究員生活が描かれ、アメリカという異文化のなかで生きる日々の葛藤や不安や苦悩が心に迫ってくる。
ハートウォーミングな出会いもあり、最終的にコロラド大学の助教授という名誉あるポストを得たときは、自分の事のようにうれしくなった。

さて、最後の章ではアメリカと日本の学生を比較しながら日米の文化比較の評論めいてくるのだが、日本人は日本人らしく振る舞うことがアメリカ社会に馴染む最良の方法だと言っているのが印象的だった。

本書は留学であれ旅行であれ、異文化に飛び込んでいく勇気を与えてくれるだろう。
異文化に対して少なからず恐怖や不安を感じ、留学や旅を躊躇している若者にぜひ読んでほしい本だ。

若き数学者のアメリカ (新潮文庫)
藤原 正彦
新潮社
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おすすめ度の平均: 4.5

5 遅咲きの青春期
5 脚色ありやなしや
4 20のころ読書
5 思わず感情移入してしまいました
3 評価がむずかしい…

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